木と暮らしの制作所

ものを売るだけではない小売りのかたち

ものを売るだけではない小売りのかたち

ものを売るだけではない小売りのかたち

広島県福山市にある家具小売店「HOLM230」の飯田成光さんへのインタビュー

メンテナンス事業のスタートは、やってみたいという好奇心とお客様からの依頼はあるのに工場からはいい返事がもらえない歯がゆさがきっかけだったと話す飯田さん。青空メンテナンスを始め、今ではペーパーコードの椅子張りをするまでになったきっかけやこれからめざすお店の在り方についてお話を伺いました。

メンテナンス事業の始まり

青空メンテナンスを始めたのは2年前、以前から飛騨をはじめ提携工場や工房でメンテナンスをやってもらうことはあったんだけど、あるときお客様から「え、、そんなに高いの?」と言われたんですよ。

お客様から依頼を受けて、提携工場に出して、帰ってきたらお渡しして、とやってきたけれど、金額的なことで懸念されるお客様も増えてきた。そういう状況があって、手間賃は見たとしても送料がなくなったりするのであれば、オイル仕上げであれば僕らでできるからやってみようという事になったのがはじまりなんです。

駐車場で天板を磨く飯田さん(イベント時のバナー画像をお借りしました)

お客さんの目の前でやるんですよ。工房なんてないから。
倉庫の前の駐車場で朝から「ブーン」ってそしたらみんな見るんですよ「あの人何やってるんだろ」って粉まみれになりながらやってるとお客さんが近寄ってきて「そうやってやるんだ」「どれくらい時間かかるの」「このあとどうするの?」って自然と聞いてきてくれるんです。

大変さも目の前で見てくれているから「こんなにしてくれるならそれくらいするよね」と対価を認められて、もっと言うと「そんな風にやってくれるなら私もお願いしようかしら」とか「こんな椅子があるんだけどいくら?」とか、ただ見てもらっているだけでひろがっていく。メンテナンス事業というのはそういう伝え方があるんだと気づきました。

実際、お店の周りに家具工場がこんなにたくさんあるのにどこにお願いしたらいいか分からない人がいっぱいいるんですよ。それが、僕らが敷地内でメンテナンスをすることでクリアになったような気がしてます。

ふとパンを買いに来たらメンテナンスが目の前でやってて、「うちのもお願いして」てなるんですよね。ふしぎなもんで・・・

僕らができるちょうどいい提案

もちろん商売それだけではやっていけないから、あくまで来てくれている人へのサービスっていう感じになっちゃうんだけど、それでも十分な信頼を得られるアフターサービスなんじゃないかと思ってやってます。基本、やれることはなんでもやって、できないことは協力工場にお願いすればいい。

前に、お母さまが買ったブラウンのウレタン着色がされたテーブルと椅子を新築でナチュラルカラーで使いたいからって依頼をいただきました。三週間くらい磨いたかな・・・テーブルとか、椅子を一脚ずつ磨いて、全部は綺麗に落とせないんだけど、すごく喜んでくれて。

僕たちも勝手に「ここまでしなきゃいけない」という完成度を求めすぎていたけど、実はそうではなくてお客様は「ここが改善されればいいんよ」「白っぽくなって雰囲気が変わればいいんよ」っていう方が思っていたよりも多かったんです。全面磨いてフル塗装しないといけないという考え方の工場とのギャップがあるなと感じて、私たちで良ければ「ここまでは出来ますよ」という感じで、僕らがやるメンテナンスは少しお客さんに寄せて金額的にも段階的にも独自の提案ができるようになりました。

オイル塗装のメンテナンスが中心だったんですけど、最近はペーパーコードの張り替えもやったりしてます。昔、籐の椅子が流行っていたんですけど、みんな破れたりたわんだりしたまま使ってるんです。なので最近そういった方からお任せでペーパーコードでの編みなおしを依頼されることも多いんですよ。

店内にある小さな工房スペース

倉庫の奥には窓が大きくとられた広くて明るい作業場

座張りの椅子をペーパーコードチェアに変えるご依頼 編み方はお任せ

ものを売るだけではない小売りの在り方

メンテナンスを希望する方の依頼って、ただお部屋と色が合わないとか、ちょっとつやつやし過ぎているとかそういう理由だったりするんで、古い家具でもそんなにがたがたするテーブルなんてないし、しっかりしているんですよ。その辺を僕らがフォローしてあげて、「テーブルはメンテナンスするんで椅子はじゃあうちで買ってくださいね」とかいっていった方がうちらしいかなと。

いつしか「小売」というのが、ただものを仕入れて売ってるだけになっちゃって「ものを買うだけだったらネットで十分」それって自分たちにできることを狭めてしまった結果の「小売の在り方」なんじゃないかな。ネットの販売でメンテナンスってあんまり見たことが無いし、どっかに送ったりなんなり大変だと思うけどうちだったら天板外して持ってきてくれたら何日か入院させたら磨いてあげるし。なんか昔の自転車屋さんとかじゃないけど、近い関係でありたいなって。本来「小売」ってそういう事だと思うんですよ。一番お客さんに近い存在、お客さんの求めるものを協力工場なりからいただいてという事なんだろうな。

楽しんでもらえる場所へ

僕らは、HOLM230をエンタメ性を高めてより楽しんでもらえる場所にしたいなと思っています。ずっと前に飛騨産業さん(岐阜県高山市)の修理工房にお邪魔したときすごく感銘を受けて、一つ一つの作業がディズニーランドに見えたんです。

やっていることはシンプルで、
サクサク
トントン
カンカン
椅子が回る

見ているだけで楽しそう、そして美しい。もちろん一流の仕事で彼らにとっては日常なんですよね。そのときパッと頭に思い浮かんだのがディズニーランドの清掃するキャストさん。

パッとちりとりを開き
サッとゴミを拾い
何事もなかったように立ち去る

そんな感じのことを売り場でできたら、みんな足を止めて感動してくれるんじゃないかなって。

店内で椅子を編む飯田さん

すごくきれいな編みです

ペーパーコードを編むようになってから、お客さんだけじゃなくていろいろな方が関わってくれるようになって楽しいし可能性が広がっているのを感じるので、メインは家具屋さんですけど「ここ行ったら楽しいな」って、一週間に何回も来たくなる家具屋になりたいなと思っています。東京からとか、飛騨からとか遠くからでも来たいと思えるお店にして、お客さんの求めるものを提供し続けたいですね。

撮られ慣れていないとしかめっ面・・・

話してくれた人 HOLM230 飯田成光さん
書いた人 木と暮らしの制作所 松原千明

固定概念に縛られない柔軟な発想と行動力でお店のあり方を考える飯田さん。元々大手メーカーの営業だったそうで、売り場をエンターテインメントにしようとしているところからも人を楽しませることが染みついているように感じました。HOLM230さんのInstagramのリールではよりそれが伝わる動画が上がっているのでそちらもぜひのぞいてみてください。木と暮らしの制作所のスタッフはみんな飯田さんのファンになってしまいました。

※上記の写真で飯田さんはスーツを着ていますが普段はとってもおしゃれな方!
 たまたま動画の撮影日だったためスーツだったそうです。

納品書を片手に法被を着て颯爽と歩く飯田さん

動画の打ち合わせ中にこっそり撮影

話してくれた人 / HOLM230 飯田成光さん
書いた人 / 木と暮らしの制作所 松原千明